2004年夏公演作品である『エフゲニー・オネーギン』のページです。
流麗な音楽が劇的な物語を彩った傑作です。

作品解説

このチャイコフスキー作曲のオペラは、1877年3月、歌手のエリザベータ・ラヴロフスカヤがチャイコフスキーにプーシキンの『エフゲニー・オネーギン』をオペラにしたらどうかと提案したことから動き出しました。
最初は『あの有名なプーシキンの傑作をオペラにするなんて…』と躊躇っていたチャイコフスキーでしたが、このアイデアは彼の心の中に留まりました。

さて、話は変わりますが、このオペラの筋を説明すると、田舎のタチヤーナという娘が、都会風のオネーギンと言う男に恋をするのですが、男は常套句である『君の事は妹のように愛しているよ』と言う言葉で断る。
その結果、悲劇が始まる…と言う筋です。
同じ経験を数多くの人がしていそうな、『遅すぎた恋愛』という一つの形でしょうか。

ここで 興味深いのは、チャイコフスキーが数多くの有名な作曲家の中で、最も不幸な結婚をしたという事実です。

1877年の春、チャイコフスキーは熱烈なファンレターを音楽院生のアントニーナ・ミュルコワからもらいます。
彼はその手紙に、オネーギンのように丁寧ではあるが冷たい返事を送るのです。
しかし、アントニーナからまた返事が返ってきます。
結果、チャイコフスキーは彼女と会うことを決め、1877年7月6日、たった3週間で終わることになる悲劇の結婚をすることになるのです…。

タチヤーナの手紙の場面はこのオペラの中で最も最初に書かれた場面です。
そこではタチヤーナとアントニーナが突然愛の稲妻に打たれ易い創造物として同化し、描かれています。
その様子は歌詞やオーケストラのメロディで表されています。

また通常は詩は原作の形をとどめていないことが多いのですが、このオペラでは珍しくプーシキンの詩がそのまま使われていることが多いのです。

そして、1878年1月、1年をかけてこのオペラは完成しました。

チャイコフスキーは、この出来上がった楽譜(鍵盤用)をタチヤーナのモデルとなったアントニーナにではなく、当時彼のパトロンで、彼の才能の賞賛者であったにもかかわらず、チャイコフスキーは個人的に会うことを避け続けていたナジェー・ジュダ・フォンメックに寄贈したということです。


上演に関するデータ


作曲: ピョートル・イリーイッチ・チャイコフスキー
原作: アレクサンドル・セルゲイヴィッチ・プーシキンの同名の劇詞
原台本: ピョートル・イリーイッチ・チャイコフスキー
日本語台本: 片寄隆典
初演: 1839年3月29日 マールイ劇場(モスクワ)
歌劇団公演: 2004年7月3日 三鷹市公会堂(東京)


- キャスト -

                                    
オネーギン(Bar.) 中野 雄介
タチヤーナ(Sop.) 宗和 彩乃
レンスキー(Ten.) 長谷川 隼也
オルガ(Alt.) 小沢 まや
ラーリナ(Mez.) 石井 佐知
フィリッペヴナ(Mez.) 奥村 美紀子
グレーミン伯爵(Bass.) 青木 貴義
大尉(Bass.) 小柳 毅鎭
トリケ(Ten.) 真弓 智也
ザレツキー(Bass.) 海津 俊介
ギヨー(黙役) 近藤 健一


東京大学歌劇合唱団
女声合唱
SopranoT 坪内聖子 宗和彩乃 和田礼佳 湯野まり 佐藤礼奈 織田路子
SopranoU 石井佐知 小沢まや 笹野晶子
Alto 池田可奈子 中村あずさ 西野千尋 奥泉彩子
男声合唱
TenorT 長谷川隼也 真弓智也 内海京久(合唱指揮) 藤波由剛
TenorU 小柳毅鎭 佐藤啓 雑古岳展 横山俊久
Bass 中野雄介 近藤健一 海津俊介 青木貴義 後藤正樹 中塚恵介


東京大学歌劇管弦楽団
指揮者 河野真士
1st Violin 渡辺亮也 平岩彩 三浦知雄 小串奈津子 西山亜希
2st Violin 中島和也 古東禎子 市ノ渡佳明 大林麻愛 
桑原清子 早見わかば 中埜朝弥子
Viola 高橋奨 福井令以
Violincello 吉中慶 大野紗和子 吉田有里 新津藍 鈴木幸寛
Contrabass 早川俊英 吉野諒子 鎌形昌平
Picclo&Flute 三角樹弘 井出香苗 河西通 松原知恵
Oboe 塚田訓久 本山美瑞
Clarinet 濱田雅祐 石田翼 勝呂優介
Faggot 下山達人 川野雅美
Trumpet 武岡暢 大西敏幸
Trombone 沼澤佳枝 川沼岳明 中田吉昭
Horn 矢崎真理子 大高菜穂子 菅原大嗣 火山健二郎
Percussion 大坪あかね
Harp 高久美穂
Pianist 佐藤礼奈 海津俊介 木村麻衣 今井彩乃 三角樹弘
下線は賛助出演


- 演劇系スタッフ -

  
演出 三角樹弘
舞台監督 池田可奈子
大道具 三角樹弘 中野雄介 市ノ渡佳明  勝呂優介 長谷川隼也
小道具 和田礼佳 宗和彩乃 暮泉茉莉絵 新津藍
衣装 矢崎真理子 平岩彩 近藤健一 池田可奈子
メイク 和田礼佳
照明 武岡暢 宗和彩乃
音響 池田可奈子 長谷川隼也
台本製作 片寄隆典
演技監修 中野雄介


- Special Thanks To -

  
舞台コントロール 落合直子
ボイトレ 坂野由美子
メイク協力 シナリーエミュ営業所 山下政子
衣装協力 升水治子



ものがたり


第一幕

農場を経営するラーリナ家には2人の娘、夢見がちの姉タチヤーナと現実的な妹オルガがいる。
ある日、オルガの婚約者レンスキーが友人オネーギンを家に連れて来た。
オネーギンはペテルブルグの社交界で暮らすうちに若くして人生に退屈してしまい、
遺産相続をした田舎の叔父の領地にやって来ていた。
タチヤーナは謎めいたインテリ青年のオネーギンに一目惚れをし、その夜、心の内を手紙に綴る。
夜が明け手紙を乳母に託すが、オネーギンは真剣なタチヤーナの告白を受け付けず、
タチヤーナは絶望と恥辱にうなだれる。

第二幕

数ヵ月後、タチヤーナの命名日を祝う舞踏会が催される。
オネーギンは婦人客が自分の陰口をたたくのに気づいて不愉快になり、
くだらない集いに誘ったレンスキーへの腹いせに、オルガをしきりにダンスに誘う。
オルガはこれに嬉しそうに応じ、レンスキーを苛立たせる。
ラーリン家の家庭教師トリケがタチヤーナへの讃歌を披露した後マズルカが演奏され、
オネーギンはまたしてもオルガと踊る。
面白くないレンスキーはオネーギンと口論を始め、ほんのからかいから発した喧嘩が決闘へとエスカレートする。

…そして決闘の朝。
レンスキーは介添人ザレツキーと共に、オネーギンを待っている間に短い人生を惜しむ詩をしたためる。
オネーギンが到着し、決闘の準備がされる。
ピストルを手に向かい合う2人。
銃声一発、倒れるレンスキー、茫然と佇むオネ―ギン。

第三幕

数年後、ペテルブルグのグレーミン公爵邸の舞踏会に旅から帰ってきたオネーギンが現れる。
やがてグレーミン公爵は社交界の花形である奥方を伴って登場。
その奥方こそが見違えるばかりに堂々とした、タチヤーナであった。
オネーギンを前に公爵は夫人への愛情を歌う。
タチヤーナはオネーギンに紹介されるも動じる様子も無い。
オネーギンの胸には激しい恋心が燃え上がり、彼女に手紙をしたためる。
場面は応接間へ変わり、タチヤーナはそこで手紙を読みながら彼の出現によって心をかき乱された苦しみを歌う。
そこにオネーギンが登場し、跪く。
タチヤーナはかつて彼に手紙を出して諭された時の思い出を語り、翻って今回の彼の無分別な行為を諫める。
オネーギンは情熱的にタチヤーナに迫る。
タチヤーナも一時は激しく動揺するが、結局、
「幸福はあんなにも近くにありましたのに・・・私は嫁いだ身、夫に貞節を守ります」
と決然と別れを告げ、オネーギンは屈辱と絶望のどん底に突き落とされる。


キャスト紹介

-相関図-

※()中の数字は幕数



エフゲニー・オネーギン

中野雄介

キリリとした眉毛と、引き締まった口元が写真では素敵なナイスガイ。 いつもとは一味も二味も違う中野さんに正直焦ってしまいます。 実際の中野さんは、笑顔を振りまくこれまたナイスガイ。 歌劇団に元気と幸せと混乱を振りまきます。 ちなみにこの年の冬公演『天国と地獄』の総監督兼演出をこなしました。 そちらを見てもらえば、より中野さんを感じることが出来ると思います。 この作品のイメージのままのほうがいいというウワサもありますが…。


タチヤーナ

宗和彩乃

キャストは始めて。
宮崎県には様々な名物があります。
冷や汁や、チキン南蛮、そしてこの宗和さんです。
…と言うのは言い過ぎかもしれません。
ですが、この作品でタチヤーナを歌う彼女には、そういっても過言ではないくらいの魅力が備わっていました。
どこにでも入り込めるような小さな体が、舞台では驚くほど大きく見えます。
…と言うのは言い過ぎかもしれません。



レンスキー

長谷川隼也

03年夏入団。キャストは初めて。
レンスキーを歌うのは、大学2年生になった長谷川さん。
とにかく学校でその姿を見るときは練習をしていると言うくらいの努力家。
また、後輩想いの良い先輩でもありました。
この頃は果たしてこの人は3年生になれるのかと考えたりしていたのですが…。
勉強時間を削って鍛え上げられた美声、ぜひご堪能ください。



オルガ

小沢まや

小沢さんと言えば、外国。
様々な国を巡り歩く小沢さんは、色々と日ごろ聞き慣れない話をしてくれます。
特に南アジア方面に詳しく、東ティモールではまさにウルルン滞在記状態。
そんな世界のオザワの力強い声をぜひお楽しみください。



ラーリナ夫人

石井佐知

歌劇団ベテランの素敵なお姉さん。
役そのままの、面倒見のいい母親風の雰囲気を漂わせていました。
実際のラーリナは領土下の農民に対しては結構厳しかったそうですが、石井さんは優しかったです。
少なくとも僕の目にはそう映っていました。



フィリッピェヴナ

奥村美紀子

歌劇団ベテランの素敵なお姉さんPart2。
静かにキラリと毒舌一閃、世の中を斬ります。
劇中ではタチヤーナに忠告を与える昔からの乳母という役柄です。
タチヤーナを静かに斬る奥村さん、注目です。



大尉

小柳毅鎭

歌劇団ベテランのお兄さん。
まだ新入団員として右も左も分からない私たちを導いてくださいました。
時々コースを外れて走り出されることもありますが…。
さて、そんな小柳さん、今作では田舎村のアイドルとして舞踏会で大活躍。
踊りもばっちり決まっています。
この後起こる悲劇を一時忘れさせるステップ、どうぞお楽しみください。



トリケ

真弓智也

歌劇団ベテランの素敵なお兄さんPart2。
歌劇団の誇るテノール、真弓さん。
今回はタチヤーナの誕生日を祝う歌を唐突に歌い上げます。
観客を釘付けにしたアリアの前では、しばしオネーギンもタチヤーナも蚊帳の外でした。
大きな真弓さんが舞台上ではさらに大きく見えました。



ザレツキー

海津俊介

キャストは初めて。
弩級の存在感と迫力を持ったある意味キャストの中のキャスト。
舞台上に現れると何故か目で追ってしまいます。
また、ピアニストとして歌劇団を支えるという一面も持ちます。
一部で流行語となった歌詞にも要注目です。



グレーミン侯爵

青木貴義

歌劇団ベテランの素敵なオジサマ。
結構前の公演の時の写真を拝見しましたが、殆ど変わっていないのに驚かされます。
若々しい素敵な先輩です。
しかし、実際に寄せる年波には勝てないのか、最近は端々にオジサマっぽい発言が…。
どうかいつまでも若いままでいてくださいね。



ギヨー

近藤健介

キャストは初めて。
通称近ちゃん、愛称近ちゃん。
思わず冬眠から覚めるようなのんびりした空気を身にまとっています。
が、今作では冷静に緊張感を孕んだ演技を見せてくれました。
キャストとしての歌声は今作では聞けませんが、次作『天国と地獄』では見事な歌唱を聞かせてくれます。
ぜひそちらもどうぞ。







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